アルミのお役立ち情報
Column
2026.4.21
世界のアルミ一次精錬シェアと中東情勢
―「電気と世界情勢」が価格を動かす―
2026年3月28日、アラブ首長国連邦のアルミ生産大手であるエミレーツ・グローバル・アルミニウムは、同社の製錬所がイランの攻撃により重大な被害を受けたと発表しました。さらに、バーレーンのアルミ大手も、自社施設が攻撃を受けたことを明らかにしています。
中東諸国は世界のアルミ一次精錬の約1割弱を占める重要な供給拠点であり、特に欧州やアジア市場にとっては不可欠な存在です。しかしながら、ホルムズ海峡が事実上封鎖されたことにより、中東産アルミの輸出はすでに停滞している状況にありました。
そのような中で今回の製錬所への直接的な被害が発生したことで、単なる物流の問題にとどまらず、生産そのものへの影響が現実化しています。
アルミニウムは、私たちの生活に欠かせない金属です。自動車、航空機、建材、電子機器など、あらゆる産業で使われています。しかし、その安定供給の裏側には、あまり知られていない「もう一つの現実」があります。
それは、アルミという素材が、単なる工業製品ではなく、エネルギーと地政学に強く支配される戦略物資だということです。
特に近年は、中東情勢の変化がアルミ市場に直接影響を及ぼすようになってきました。本記事では、世界のアルミ一次精錬のシェア構造と中東情勢の関係について、背景から今後の展望まで丁寧に解説します。
アルミは「電気の塊」である
まず、アルミ産業の本質を理解することが重要です。
アルミニウムは、ボーキサイトという鉱石からアルミナを精製し、それを電気分解することで製造されます。この電解工程では膨大な電力を消費し、製造コストの中で電力費が大きな割合を占めます。
そのため、アルミ産業はしばしばこう表現されます。
「アルミは電気を固めたもの」
この言葉が示す通り、アルミの生産は「どこで安い電力を確保できるか」によって決まります。つまり、鉄のように鉱山の近くで作るのではなく、
発電コストの安い場所に工場が集まるという特徴があります。
この構造こそが、アルミと地政学を強く結びつける要因となっています。
世界のアルミ一次精錬シェア
現在の世界のアルミ一次精錬は、極めて偏った構造をしています。
おおよそのシェアは以下の通りです。
・中国:約60%
・インド:約6%
・ロシア:約5%
・カナダ:約4%
・中東(UAE・バーレーンなど):約8〜10%
・その他:約15%
この中で際立っているのが中国の存在です。単一国で6割という圧倒的なシェアは、他の資源分野ではほとんど見られません。

なぜ中国がここまで強いのか
中国の強さの背景には、いくつかの明確な理由があります。
まず第一に、石炭火力による安価な電力です。アルミ精錬は電力コストが命であり、中国は豊富な石炭資源を背景に、低コストでの生産を実現してきました。
次に、国家主導の産業政策です。中国政府はインフラ投資や不動産開発を通じて巨大なアルミ需要を創出し、それに応じて精錬設備を拡張してきました。
さらに、EV(電気自動車)や再生可能エネルギー設備の拡大も、アルミ需要を押し上げています。
こうした要因が重なり、中国は世界最大の生産国であり消費国となりました。
中国以外のプレイヤーたち
一方、中国以外の国々もそれぞれの強みを持っています。
インドは石炭と水力を組み合わせた成長市場であり、今後の拡大が期待されています。ロシアは水力発電を活用した低コスト・低炭素型の生産を行っています。カナダも同様に水力を活用し、クリーンアルミの供給源として重要です。
そして近年、特に注目されているのが中東です。
中東がアルミ供給のカギを握る理由
中東は、アルミ精錬に非常に適した条件を持っています。
最大の理由は、天然ガスの豊富さです。天然ガスは発電効率が高く、安定した電力供給が可能であるため、アルミ精錬との相性が非常に良いのです。
代表的な企業としては、UAEのエミレーツ・グローバル・アルミニウムが挙げられます。この企業は世界有数のアルミ生産能力を持ち、欧州やアジアへの重要な供給源となっています。
また、バーレーンなども含め、中東全体で世界の約1割弱のアルミを生産しています。この数字自体は中国に比べれば小さいものの、国際市場における影響力は非常に大きいのが特徴です。
中東情勢がアルミ市場に与える影響
では、中東情勢はどのようにアルミ市場に影響するのでしょうか。
その影響は大きく3つに分けられます。
① ホルムズ海峡という生命線
まず最も重要なのが、ホルムズ海峡です。
この海峡は、中東から世界へとエネルギーを輸送する重要なルートであり、同時にアルミ製品の輸出にも使われています。
もしここが封鎖されれば、
・原油や天然ガスの供給が滞る
・電力コストが上昇する
・アルミの輸送が停止する
という連鎖的な影響が発生します。
つまり、ホルムズ海峡はアルミ市場にとって「見えないスイッチ」のような存在なのです。
② 物流だけでなく生産も止まる時代
従来、中東リスクは「輸送の問題」として語られることが多くありました。しかし近年は状況が変わりつつあります。
実際に、UAEやバーレーンのアルミ製錬所が攻撃を受けたとの報道もあり、生産設備そのものがリスクにさらされる時代に入っています。
これは非常に重要な変化です。なぜなら、輸送が止まるだけであれば在庫で対応できますが、生産能力が失われれば供給不足は長期化するからです。
③ エネルギー価格の波及
アルミ価格は、エネルギー価格と密接に連動しています。
中東情勢が不安定になると、
・原油価格の上昇
・天然ガス価格の高騰
・発電コストの上昇
といった現象が起き、それがアルミの製造コストに直結します。
結果として、アルミ価格は上昇圧力を受けることになります。

世界のアルミ市場は分断されつつある
現在、アルミ市場は一つの大きな変化の中にあります。それが「市場の分断」です。
中国を中心としたアジア市場、ロシアの供給、そして中東の輸出拠点――これらがそれぞれ異なる動きを見せています。
特にロシアに対する制裁の影響で、欧州は新たな供給源を求めており、その受け皿として中東の重要性が高まっています。
しかし、その中東が不安定化すれば、供給のバランスは一気に崩れます。
その結果、
・中国依存の強化
・価格変動の激化
・調達リスクの増大
といった影響が広がる可能性があります。
日本にとっての意味
日本は現在、アルミ一次精錬をほぼ行っておらず、輸入に依存しています。
そのため、中東情勢の影響を直接受ける立場にあります。
例えば、
・中東からの供給が滞る
・エネルギー価格が上昇する
・中国への依存が高まる
といった事態が発生すると、日本の製造業全体に影響が及びます。
特に自動車や電子機器など、アルミを多用する産業にとっては、コスト増加と供給不安の両方がリスクとなります。
今後のシナリオをどう見るか
今後のアルミ市場は、いくつかのシナリオで考えることができます。
まず、中東情勢が安定すれば、現在の供給構造は維持されるでしょう。しかし、緊張が高まれば、供給不安と価格上昇が避けられません。
さらに長期的には、再生可能エネルギーを活用した精錬が拡大し、エネルギー依存構造そのものが変化する可能性もあります。
ただし、その転換には時間がかかるため、当面は中東情勢が市場に与える影響は続くと考えられます。
まとめ:アルミは「地政学を映す金属」
アルミ一次精錬の世界は、単なる素材産業ではありません。
・中国が約60%を占める偏った供給構造
・中東が担う重要な供給拠点としての役割
・エネルギーと物流に依存する脆弱性
これらが複雑に絡み合い、現在の市場を形作っています。
そして中東情勢、とりわけホルムズ海峡の動向は、アルミ市場に直接的な影響を与える重要な要素です。
アルミは軽くて扱いやすい金属ですが、その裏側では、エネルギーと政治の重たい力が働いています。
今後アルミ市場を理解するためには、単なる需給だけでなく、
「どこで電気が作られ、どこを通って運ばれているのか」
という視点が不可欠です。
アルミとは、まさに「世界のエネルギーと地政学を映す鏡」なのです。
アルミに関するお問い合わせは昭和軽金属へ
昭和軽金属工業は90年の歴史を持つ老舗のアルミ加工会社です。低コストで高品質なインパクト加工技術を駆使し、生産スピードやコスト面での課題を解決します。ご要望に応じた付加価値のある提案で、製品の品質を向上させます。
https://www.showa-keikin.co.jp/
監修者

- 取締役社長
中 保博
昭和軽金属はアルミの加工だけにとどまらないご相談を大切にしています。
設計通りに加工することは簡単です。
その背景にある、お客さまがアルミを加工したい目的はなにか、どのようなカタチで最終品として使われるのか、どうしたら便利に利用されるか。
アルミ加工+「X」を考えてお話することで、お客さまや消費者さまの「!」を生み出します。